インド北部ラジャスタン州「健康の権利法」が可決したけれど・・・
コロナ禍で健全な地域保健システムの必要性が再認識されました。
病気になったときやケガをしたときに
質の良い医療に、過剰な経済的負担なく、誰もがアクセスできたり、
公衆衛生や健康に関する正しい情報にアクセスできたりすることの大切さを、
行政も市民も強く感じたところです。
インドの憲法は「基本的人権」を定めていますが、そのなかに「健康の権利」は含まれず、
「生存権」のなかに「健康の権利」が含むとみなされています。
とことが北部のラジャスタン州では2021年後半、
にわかに「健康の権利」法案づくりの動きが起こりました。
紆余曲折を経て、
2023年3月21日、州議会はインドで初めてとなる「健康の権利」法を可決しました。
元研修生のナレンドラさんやチャヤさんはこの動きに深く関わってきました。
今日のブログは、二人が書いた記事※をもとに、今、同州で起きていることをお伝えします。
※原文(英語)をご覧になりたい方はここをクリックしてください。
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インドの医療制度には「公的」と「プライベート(私的)」の二つがあります。
日本ではどちらでも保険を使って「必要な治療」を受けることができますが、
インドでは公的な制度下のものに限られ、しかもその量・質ともに十分なものとはいえません。
人口あたりに配置すべき医療保健の施設や従事者の人数の定めがあるものの、
きちんと実施されていません。
そのうえ貧しい人たちに対して差別的な態度をとる医師や看護師が少なくないものだから、
貧しい人たちは借金をしてでもプライベートの病院に行き、さらなる貧困に陥ります。
ラジャスタン州の「健康の権利」法はこのような公的医療制度の改善・強化を狙ったものです。
また、患者と医療保健従事者の権利を保護し、
医療に関する説明責任と透明性を高める※ことも狙っています。
※ 例えば、患者が治療の内容や費用に関する情報や、担当医師の経歴に関する情報にアクセスできるようになる。
患者やその家族が医療に関する苦情や相談をしたり、
セカンドオピニオンを求めたりする仕組みが地域ごとに整えられる。
しかし、プライベート病院の医師たちは、
「法案づくりの過程で、医師会が提出した要望が反映されていない」と言って反発しています。
抗議のために診療を休止しているために、患者が公立の病院や診療所に押し寄せています。
公立の施設で働く人たちも抗議の意を表して黒いリボンをつけています。
ナレンドラさんとチャヤさん曰く、
医師会の意見のほとんどは反映されていたり、追加の法案で対処されることが約束されています。
例えば、プライベートの病院も、緊急患者には治療を施すことが義務化されます。
これによって、支払い能力がない人が受け入れを拒否されたり、
治療を後回しにされたりすることがなくなります。
患者が治療費を支払うことができない場合、行政が支払う制度をつくることになっており、
プライベート病院が不利益を被ることはありません。
むしろナレンドラさんとチャヤさんは、特別委員会が法案を修正するなかで、
重要な事柄が希薄化され、非包括的な法律になってしまったと考えています。
例えば、また州や郡の保健局への代表制が限られていたり、
ラジャスタン州の市民権をもたない人たちが排除されていたりする点です。
移民労働者、難民、移動生活を送る人たち、ホームレスの人たちなど、
州の人口の少なくない割合の、最も周縁化されたひとたちの権利が保護されていないのです。
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この動きはインドにおいて歴史的な出来事だと思いますが、
ナレンドラさんやチャヤさんが書いた記事を読んだり、二人から状況を聞きかじるだけでは、
正直、同州の「健康の権利」法をとりまく状況を捉えきることはできません。
今月の後半に現地に行く予定もあり、
時間をかけてこの問題について理解を深めていきたいと思います。
職員 髙田