緊迫する スリランカの社会情勢
写真:スリランカ 2022年におきた市民の抗議活動 撮影:ラマさん(1987年国際研修参加)
今日はスリランカについて、書きます。
連日、マスメディアでは日本国外のニュースとして、トルコ・シリアの大地震、
ウクライナ、ロシア、中国、アメリカの政治的問題を大きく取り上げられていますが、
今日、スリランカ社会もとても緊迫した状況にあるからです。
少し時間を巻き戻します。
2022年、スリランカは深刻な経済危機に陥り、
有効な手立てを講じられなかった政府に対する市民の抗議行動が拡大しました。
大統領の公邸に多くの市民がなだれ込んだニュース映像をご覧になった方も多いと思います。
当時の大統領は国外に逃れたのち辞職し、その後、ウィクラマシンハ氏が大統領になりました。
そして今のスリランカにとって重要な政治的課題が2つあります。
ひとつは債務再編、もうひとつは3月9日に予定されている地方議会選挙です。
テーマ1:債務再編について ――――――――――――――――――――――
スリランカ政府は経済を立て直すために、
国際通貨基金(IMF)から約29臆ドルの融資を受けようとしています。
IMFはその条件として、❶債務再編、❷税制改革、❸国営企業の売却・再編を求めています。
ところが❶債務再編について、スリランカ政府と主要な債権国であるインド・中国との
交渉が長引いており、IMFの支援は始まっていません。
一方、❷税制改革はすでに始まっており、増税と課税対象の拡大が発表されました。
これまでの経済危機では、所得が低い人たちほどより大きな打撃を受けてきたと言われています。
しかしこの税制改革によって、大学の教員、医師、中央銀行や国営企業の従業員といった
高所得層の人たちが大きな影響を受けることになります。
すでにインフレ率が50%を超え、
電気・水道・燃料・ガスなどの光熱費や、通信費も大幅に値上げされました。
「このうえ税負担が増えてはたまらない」と、高所得の人たちが抗議活動を行っています。
これまで抗議活動とはあまり縁がなかった人たちが運動を始めたことは、新しい傾向です。
テーマ2:地方議会選挙について ――――――――――――――――――――――
このように現政権に対する市民の不満が高まるなか、
野党がその不満の受け皿となって、地方議会選挙で勝利する可能性はあります。
かつてスリランカでは、地方選挙で野党が躍進し、
その勢いのまま中央での政権交代が起きたことがあります。
それを警戒する現政権は、「選挙資金がない」「今は選挙を実施する適期ではない」といって
3月9日に予定されている地方議会選挙を中止しようとしています。
スリランカ国内外のジャーナリストや人権活動家は、
「このまま市民のなかに貧困や絶望が極まれば、社会に犯罪行為が蔓延したり、
政府が非常事態法やテロ防止法を恣意的に用いて市民を抑圧したりするのではないか」
と懸念しています。
実際のところ、ウィクラマシンハ大統領は就任後にこれらの法を用いて、
前任者を辞任に追い込んだ抗議活動を封じ込めました。
予定通り選挙が行われるかどうか・・・。
予定通り行われたとしても、その結果によっては社会が一層不安定化することもあります。
スリランカ社会の動向を、注意してみてきたいと思います。
※本ブログは下記の記事を参考にして書いています。
HIMAL South Aisan, "Sri Lanka’s local elections are a major threat to the ruling class"/
Jayadeva Uyangoda/February 13, 2023
職員 髙田